松戸市が財政健全化3か年計画を策定、市庁舎移転白紙撤回と病院経営危機などが背景に
市庁舎移転計画の白紙撤回、市立総合医療センターの経営危機と関連して、松戸市全体が抱える構造的な財政課題が浮き彫りになってきました。
8月22日の市議会全員協議会では、財政運営の基本方針が示され、令和10年度までの3か年で実質単年度収支の黒字化を目指すことが明らかにされました。
危機的状況にある松戸市の財政
現在の松戸市財政は、まさに正念場を迎えています。市の貯金にあたる財政調整基金は、令和3年度の157.2億円から令和5年度には107.3億円まで約50億円も減少。さらに令和6年度は80.7億円まで落ち込む見通しです。
経常収支比率も令和3年度の87.9%から令和6年度には96.2%まで上昇しており、これは自由に使えるお金がほとんどなくなっている状況を意味します。
一般的に90%を超えると財政の硬直化が進んでいるとされ、新しい事業や将来への投資が困難になってきます。
総合計画策定時からの大幅な乖離
問題の根本には、総合計画策定時(令和3年度)の財政推計と現状との大きな乖離があります。
令和4年度から令和11年度までの歳出総額を比較すると、当初計画の約1兆2,787億円に対し、現状推計では約1兆5,160億円と、実に2,373億円もの差が生じています。
乖離の主な要因
- 扶助費の大幅増加(計画では令和4~11年度500億円固定だったが、実際は令和4年度決算623億円、令和5年度決算654億円と年々増加)
- 4大事業以外の大型事業の規模・事業費増加
- 物価高騰による工事請負費・人件費の上昇
- 新たな大型事業の追加
- 国民健康保険への赤字繰出金(令和4~6年度累計約52億円)
- 病院事業会計へのルール外繰出金の必要性
4大事業と新規大型事業への影響
松戸市が進めてきた4大事業には、新焼却施設建設、新庁舎整備(旧法務局解体、基本計画策定)、新拠点ゾーン整備、新松戸駅東側地区土地区画整理事業があります。
これに加えて、北小金駅周辺地区まちづくりや常盤平周辺地区まちづくり、小・中学校長寿命化事業など、総事業費約2,713億円の大型事業が予定されています。
しかし、新市長による庁舎移転計画の白紙撤回により、新庁舎整備と新拠点ゾーン整備については「白紙撤回(検討中)」の状況となりました。これらの事業だけでも数百億円規模の見直しが見込まれます。
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病院経営危機が財政に与える深刻な影響
特に深刻なのが、市立総合医療センターの経営悪化による財政への影響です。病院への一般会計からのルール外繰出金は、令和8年度から令和10年度までの3年間で累計約73億円に上る可能性があります。
これは先に報告された病院の経営再建方針とも直結する課題で、病院単体の経営改善だけでなく、市全体の財政健全化の観点からも待ったなしの状況となっています。
関連リンク:松戸市立総合医療センターの経営危機が深刻化、令和8年度以降に現金枯渇の恐れ、抜本的経営再建へ
財政健全化への2つの基本方針
松戸市は財政健全化に向けて、2つの基本方針を打ち出しました。
方針1:実質単年度収支黒字化3か年計画(令和8~10年度)
- 経常収支比率92%以下の維持(現状96.2%から約4ポイント改善)
- 総合医療センターの経営改善による繰出金削減
- 歳出事業の効率化と時代に合わない事業の見直し
- 歳入確保策の推進(遊休地売却、ネーミングライツ拡大など)
- 使用料・手数料の見直し
方針2:大型事業の実施時期整理
大型事業を区分AとBに分類し、区分Bの事業については令和9年度に実施時期を再検討するとしています。これにより、工事時期の重複による財政負担の集中を避ける狙いがあります。
市民生活への影響と今後の課題
財政健全化の取り組みは、市民生活にも少なからず影響を与える可能性があります。使用料・手数料の見直しや事業の効率化により、一部のサービス水準に変化が生じるかもしれません。
また、大型事業の実施時期調整により、予定していたまちづくり事業や公共施設整備が先延ばしになる可能性もあります。
一方で、財政の健全化により、長期的には安定した行政サービスの提供が可能になるという側面もあります。
令和10年度の実質単年度収支黒字化という目標達成に向けて、市庁舎問題、病院経営改善、そして財政健全化という3つの重要課題が相互に関連しながら進展していくことになります。
松戸市政の舵取りは、これまで以上に慎重かつ戦略的なアプローチが求められる局面を迎えています。
